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横浜地方裁判所 昭和44年(ワ)508号 判決

原告(反訴被告) 鈴木進

原告 鈴木進吾

右原告両名訴訟代理人弁護士 新井藤作

鈴木航児

右訴訟復代理人弁護士 野村実

被告(反訴原告) 洪良訓

主文

被告(反訴原告)は原告(反訴被告)鈴木進に対し二〇七万五、一〇〇円およびこれに対する昭和四四年四月七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員、原告鈴木進吾に対し三万五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四四年四月七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告等のその余の請求を棄却する。

反訴原告(被告)の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は本訴反訴を通じて八分し、その一を原告等、その七を被告の各負担とする。

この判決の第一項は原告鈴木進が四〇万円、原告鈴木進吾が七、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告等

(一)  本訴について。

1 被告は原告鈴木進に対し二二七万九、八五〇円、原告鈴木進吾に対し五万二、五〇〇円および右各金員に対する昭和四四年四月七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(二)  反訴について(反訴被告鈴木進)。

1 反訴原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。

二、被告

(一)  本訴について。

1 原告等の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告等の負担とする。

(二)  反訴について。

1 反訴被告(原告鈴木進)は反訴原告に対し二六六万二、五〇〇円およびこれに対する昭和四二年三月三〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

第二、主張

その一、本訴について。

一、原告等(請求原因)

(一)  原告鈴木進は昭和二四年一一月八日頃左記土地(以下「本件(イ)(ロ)(ハ)土地」という。)を当時の所有者富沢セイより普通建物所有の目的で期間を定めず賃借した。

(イ) 大和市大和南一丁目一一〇二番二 宅地 五・八五平方米(一坪七合七勺)

(ロ) 同所同番三           宅地 七四・三一平方米(二二坪四合八勺)

(ハ) 同所同番四           宅地 八三・五七平方米(二五坪二合八勺)

(二)  右三筆の土地は、原告鈴木進が賃借した当時は、大和市大字深見字長窪二七四三番地宅地四五三坪(一、四九七・五二平方米)の一部であって、原告鈴木進は該賃借地上に家屋番号三二番四木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建店舗兼住宅一棟床面積六六・二四平方米(以下「本件甲建物」という。)を建築所有して、昭和三二年一〇月二九日右建物につき所有権保存登記を経由した。

(三)  昭和三八年一二月二六日富沢セイが死亡し、相続により富沢晴雄が前記宅地四五三坪の所有権および賃貸人の地位を承継したが、富沢晴雄は昭和四〇年六月三日右土地を本件(イ)(ロ)(ハ)三筆の土地に分筆した上、同月一一日本件(ロ)土地を山本源治に売渡し(同月一二日所有権移転登記経由)、山本は昭和四〇年一一月二二日これを金吉平に売渡し(同月二五日所有権移転登記経由)、金は昭和四二年三月一八日これを被告に売渡した(同月二〇日所有権移転登記経由)。

(四)  原告鈴木進が建築した本件甲建物は原告鈴木進の賃借地中分筆後の本件(ハ)土地上に存するが、原告鈴木進が本件甲建物につき所有権保存登記を経由することにより取得した賃借権の対抗力は、分筆後の本件(ロ)土地についても及ぶものであるから、原告は被告に対し本件(ロ)土地の賃借権を対抗することができる。さればこそ、原告鈴木進は昭和四三年七月一八日本件(ロ)土地上に家屋番号一一〇二番三木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建店舗兼居宅一棟床面積四三・〇六平方米(以下「本件乙建物」という。)を建築し、同月二五日所有権保存登記を経由したのである。

(五)  ところが、被告は昭和四三年八月一五日弁護士別府祐六を代理人として、原告両名を相手どり、藤沢簡易裁判所に対し「債務者等(本件の原告両名のこと)が債権者(本件の被告のこと)の所有にかかる本件(ロ)土地上に急造した本件乙建物に対する債務者等の占有を解き、債権者の委任する横浜地方裁判所執行官の保管に附す。」旨の仮処分決定を申請し(同裁判所昭和四三年(ト)第一五号事件)、同月一九日、その旨の仮処分決定を得、同月二三日執行した。そこで、原告両名は、同月二七日に藤沢簡易裁判所に仮処分異議を申立て、審理の結果、同年一二月一九日前記仮処分決定を取消し、被告の仮処分申請を却下する旨の判決が言渡され、その判決は昭和四四年一月一〇日確定した。そして、昭和四三年一二月二〇日前記仮処分の執行は解放された。

(六)  被告は前記仮処分申請の理由として、次のように主張している。

「本件(ロ)土地は被告の所有である。ところが、隣地の本件(ハ)土地の賃借人たる原告鈴木進は、なんらの権原がないのに、昭和四三年七月中本件(ロ)土地上に本件乙建物を急造し、原告鈴木進吾とともにこれに居住し、本件(ロ)土地を不法に占拠している。

原告鈴木進が隣地の本件(ハ)土地を賃借し、その地上に本件甲建物を所有しているとしても、別筆である本件(ロ)土地まで賃借権は及ばない。

仮に本件(ロ)土地に賃借権が及ぶとしても、右賃借権の存続期間は昭和二四年一一月八日より二〇年である。そして右借地上にはかつて建物が建てられていたが、種々の経緯の末、その建物は昭和四三年七月一一日撤去された。ところが、右二〇年の期間満了が近づき、残存期間僅かに一年余となっているにかかわらず、原告鈴木進は、急遽、残存期間を超えて存続するような本件乙建物の建築に取りかかったので、被告は直ちに口頭で原告鈴木進に対し工事差止を通告し、更に内容証明郵便をもって建物築造禁止並びに既成構築物の撤去を要求した。従って、原告鈴木進は借地法第七条に基づき当然工事を中止すべきにかかわらず、あえて完成したものである。よって、被告は原告鈴木進に対し、本件乙建物の撤去を求める権利を有するものであるところ、原告等が不法に居住占拠しているので、権利保全のためその排除を求める。」

というのである。

(七)  しかし、右被告の主張は次の理由で不当である。

原告鈴木進が本件(ロ)土地の賃借権を被告に対抗しうることは前記(一)ないし(四)のとおりである。

次に期間の点であるが、原告鈴木進と賃借当時の所有者富沢セイとの間では、存続期間を定めたことはなく、もちろん、そのような契約書を作成したこともない。従って、被告の主張は、その前提を欠いており、失当である。また、仮に期間が二〇年であったとして、土地所有者において残存期間を超えて存続すべき建物の築造に対し異議が出せる場合でも、土地所有者が築造工事を中止させたり、賃借人の建物に対する占有を奪う権利などはどこからも出てこない。

以上のことは、前記仮処分異議訴訟の判決でも是認されていることである。従って、被告は違法に原告等の本件乙建物に対する占有を奪ったものといわなければならない。

(八)  被告が前記自己の主張の不当を知っていたことは次の事情により明らかである。仮に知らなかったとしても、過失がある。

1 被告は本件(ロ)土地を前所有者金吉平より昭和四二年三月一八日に譲受けている。ところが、その時は、原告鈴木進と金吉平との間において、本件(ロ)土地に対する原告鈴木進の賃借権の存否をめぐって横浜地方裁判所に訴訟が係属しており(同裁判所昭和四一年(レ)第四五号事件)、その訴訟の弁論は終結し、判決の言渡を待っている時であった。そして、その判決の結果は、第一審の藤沢簡易裁判所において原告鈴木進が勝訴している等の理由から、今回も同様の結果になることが大方明らかであった。

そのために、金吉平と被告は共謀して、本件(ロ)土地の所有権譲渡をして、判決の実効を減殺しようとしたものと推測される。そして、右訴訟は、昭和四二年三月二八日(被告の譲受後一〇日)に原告鈴木進の勝訴の判決があり、その理由は前記(七)記載のそれと同様であった。そして、右訴訟の金吉平の訴訟代理人は、前記(五)の仮処分申請事件における被告の代理人である弁護士別府祐六である。従って、右弁護士は、右仮処分申請をするとき、その理由の不当性は十分承知していたものであり、被告も、同弁護士または金吉平を通じて、その間の事情はよく知っていたものと推測される。

2 更に、被告は原告鈴木進を相手どって昭和四二年三月二九日に横浜地方裁判所に対し、本件(ロ)土地に対する原告鈴木進の賃借権不存在確認等の訴を提起したが(同裁判所昭和四二年(ワ)第四二八号事件)、第一回口頭弁論期日に欠席し、その訴訟は休止満了で擬制取下になった。また、その訴提起に伴い、原告鈴木進を相手どって横浜地方裁判所に対し仮処分を申請したが、審尋期日に原告鈴木進と代理人が出頭すると、その場で申請を取下げたりしたこともある。そして、右訴および申請につき被告の代理人となったのは、いずれも前記同様弁護士別府祐六であった。被告が誠実に原告等と賃借権の存否について争う意思があったのなら、右の機会を十分に利用すべきであったのである。

3 右以外にも原、被告間には種々の紛争があり、それらは全部横浜地方裁判所において処理されてきたために、同裁判所は原被告間の事情をよく承知しているので、たとえ被告が前記(五)のような仮処分申請を同裁判所にしても認容されることは考えられないことであった。そこで、被告は、本件乙建物の評価を九万五、〇〇〇円と不当に安く見積り、しかも、本件乙建物については、被告の前記(五)の仮処分申請よりも二〇日以上も前である昭和四三年七月二五日に所有権保存登記が完了しているのに、故ら未登記であるとして、本来管轄権を有せず事情を知らない藤沢簡易裁判所に申請して、前記仮処分決定を得たものである。現在の諸般の事情からして床面積四三・〇六平方米(約一三坪)の店舗兼居宅が九万五、〇〇〇円で建つはずがない。現に原告の保存登記申請時の課税価格は五五万九、〇〇〇円であった。

4 借地法第七条の規定を根拠に工事禁止や占有を奪う権限が土地所有者にないことは明らかであり、法律専門家である弁護士別府祐六が代理人になっているのであるから、被告もそのことを知っていたものとおもわれる。

5 被告の求めた仮処分は、原告両名の建物に対する占有を奪い、執行官の保管に附すという強力なものであるが、そのような仮処分を求めるなんらの必要性もなかったものである。仮に被告の前記主張が正当であったとしても、一般の占有移転禁止仮処分でも十分その目的を達成できたはずである。それにもかかわらず、被告は、故意に原告等に損害を蒙らせることのみを目的に右仮処分申請をしたものである。

(九)  原告両名の損害

原告鈴木進は、本件乙建物を建てて、昭和四三年七月二一日より、園芸植物や野菜類の種子・肥料・小鳥・園芸用品等を販売しており、原告鈴木進吾は、原告鈴木進の子であり、右建物に自分の家族(妻と子供一人)とともに居住して、父の営業の手伝をしていたものである。ところが、昭和四三年八月二三日朝、被告より前記仮処分執行を受け、同年一二月二〇日その執行が解放されるまでの間、原告等は前記営業ができなかった。

1 原告鈴木進の損害

(1) 本件乙建物内の店舗では、開店から仮処分の執行を受ける前日までの営業期間中一日平均五万二、五六〇円の売上があり、その三割五分に当る一万六、七三〇円の利益があった。従って、営業できなかった一二〇日間に二〇〇万七、六〇〇円の得べかりし利益を喪失した。

(2) 執行行為により直接蒙った損害

前記仮処分執行のとき、被告の頼んだ人夫十数人が現場に執行官とともに来て、被告の見ている前で、原告鈴木進所有の後記物件を乱暴に建物内より路上に搬出したために、次のような損害を生じた。

(イ) ホーレン草の種子と鳩の飼料の混合による損害     三万円

(ロ) 白菜・大根・その他の種子の混合による損害 四万八、〇〇〇円

(ハ) 肥料に砂利等が混合したことによる損害     五、五五〇円

(ニ) 化学肥料が水に濡れたことによる損害      四、五五〇円

(ホ) 球根破損による損害              七、五〇〇円

(ヘ) ビニール破損による損害          二万三、〇〇〇円

(ト) 機具(噴霧器・如露等)の破損による損害  二万五、〇〇〇円

(チ) 鳥籠破損による損害              五、三〇〇円

(リ) 植木鉢破損による損害             八、二〇〇円

(ヌ) 農薬破損による損害              六、四〇〇円

(ル) 包装紙破損による損害             七、五〇〇円

(ヲ) 小鳥の逃げたりした損害          三万一、二五〇円

(ワ) 小鳥飼料の混合による損害           二、五〇〇円

(カ) 執行により持ち出された商品整理のための人件費(延二七人) 六万七、五〇〇円

2 原告鈴木進吾の損害

(イ) 家財道具を移動するに要した人件費      三万五、〇〇〇円

(ロ) 家財道具の破損による損害          一万七、五〇〇円

(十)  よって、原告両名は、不法行為に基づく損害賠償として被告に対し、次の金員およびこれに対する履行期の後である昭和四四年四月七日以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

1 原告鈴木進の分             二二七万九、八五〇円

2 原告鈴木進吾の分              五万二、五〇〇円

二、被告(請求原因に対する答弁)

(一)  請求原因(一)の事実中本件(イ)(ロ)(ハ)土地がもと富沢セイの所有であったこと、原告鈴木進が昭和二四年一一月八日頃富沢セイより本件(ハ)土地を賃借したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告鈴木進が富沢セイから本件(ロ)土地を賃借した事実はない。本件(ロ)土地は原告鈴木進が本件(ハ)土地を賃借したのと同日に池田勇が富沢セイよりこれを賃借したものである。このことは本件(ロ)土地上にはもと池田が建築所有し、同人名義で所有権保存登記がされた建物(家屋番号深見四一番の二四木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建店舗兼居宅一棟床面積一〇坪七合五勺((三五・五三平方米))、現況一七坪七合五勺((五八・六七平方米))。以下「本件丙建物」という。)があったことによっても明らかである。

(二)  請求原因(二)の事実中本件(イ)(ロ)(ハ)土地がもと大和市大字深見字長窪二七四三番地宅地の一部であったこと、原告がその賃借地(その範囲の点を除く。)上に本件甲建物を建築所有して、所有権保存登記を経由したことは認めるが、その余の事実は否認する。本件(イ)(ロ)(ハ)土地は大和市大和南一丁目一一〇二番二土地とともにもと前記二七四三番宅地を構成していたものであり、右宅地の地積は四五六坪であった。

(三)  請求原因(三)の事実中富沢セイが死亡し、相続により富沢晴雄が前記宅地の所有権を承継したこと、右宅地が分筆されたこと、被告が金吉平より本件(ロ)土地を買受け、所有権移転登記を了したことは認める。

(四)  請求原因(四)の事実中原告鈴木進が建築した本件甲建物が分筆後の本件(ハ)土地上に存すること、原告鈴木進が本件甲建物につき所有権保存登記を了したこと、原告鈴木進が昭和四三年七月中本件(ロ)土地上に本件乙建物を建築したことは認めるが、その余は争う。

(五)  請求原因(五)の事実は認める。

(六)  同(六)の事実は認める。

(七)  同(七)は争う。

(八)  同(八)の事実は否認する。

(九)  同(九)の事実は否認する。

(十)  同(十)は争う。

(十一)  被告の主張

1 後記反訴請求原因において述べるとおり、原告は金吉平との間の藤沢簡易裁判所昭和三五年(ハ)第七〇号事件につき同年一一月二二日成立した訴訟上の和解調書の執行力ある正本に基づき、昭和四二年三月二九日当該事件の第三者である被告が本件(ロ)土地上に所有していた本件丙建物(もと池田勇の所有であったが、順次丸山晶子、金吉平、被告に譲渡されたものである。)を収去する強制執行に出で、違法に本件(ロ)土地の占有を取得したものである。

2 また、本件(ロ)土地は被告を債権者、金昌煥を債務者とする東京地方裁判所八王子支部昭和四二年(ヨ)第二二八号仮処分申請事件につき同裁判所がなした仮処分決定に基づき昭和四二年五月二二日横浜地方裁判所執行官の保管に附され現状不変更を条件に金昌煥にのみ使用を許されていたものである。原告鈴木進は昭和四三年七月中右執行官の占有を侵奪して、本件(ロ)土地上に本件乙建物を建築したものである。

3 以上によれば、原告鈴木進は不法に本件(ロ)土地の占有を取得し、地上に本件乙建物を建築したものであるから、原告等が適法に本件乙建物を占有していたことを前提とする損害賠償の請求は失当である。

その二、反訴について。

一、反訴原告(反訴請求原因)

(一)  反訴被告(本訴原告鈴木進)は金吉平との間の藤沢簡易裁判所昭和三五年(ハ)第七〇号事件につき同年一一月二二日成立した訴訟上の和解調書の執行力ある正本に基づいて、昭和四二年三月二九日、当該事件の第三者である反訴原告が本件(ロ)土地上に所有していた本件丙建物を収去する強制執行を行った。

(二)  本件丙建物はもと池田勇の所有であり(本訴関係二、(一)参照)、順次丸山晶子、金吉平に譲渡され、前記和解成立当時は金吉平の所有であったが、前記強制執行のなされる数週間前反訴原告が金吉平から買受け、所有権移転登記を経由したものである。

(三)  従って、反訴被告が本件丙建物収去の強制執行をするには反訴原告を譲受人とする承継執行文の付与を受けることを要し、これなくしてなした前記強制執行は違法である。

また、建物収去の強制執行に当って執行債権者は、執行官が当該建物の所有権変動の有無を確認することに資するため登記簿謄本を提出する義務があるにもかかわらず、反訴被告はこのような措置をとることなく前記強制執行をなした。この点においても前記強制執行は違法である。

(四)  反訴被告の行為は故意または過失に出たものである。

(五)  反訴原告は反訴被告の不法行為により本件丙建物を失い、二六六万二、五〇〇円の時価相当の損害を蒙った。

(六)  よって、反訴原告は反訴被告に対し損害賠償二六六万二、五〇〇円および不法行為の翌日たる昭和四二年三月三〇日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、反訴被告(反訴請求原因に対する答弁)

(一)  反訴請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実中本件丙建物が和解成立当時金吉平の所有であったことは認める。反訴原告がその主張のとおり本件丙建物を買受け、所有権移転登記を経由したことは不知。

(三)  同(三)ないし(六)は争う。

第三、証拠≪省略≫

理由

第一、本訴について。

一、(本件(ロ)土地の賃借権の対抗力)

≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件(イ)(ロ)(ハ)土地はもと富沢セイ所有の大和市大字深見字長窪二七四三番地宅地四五三坪(一、四九七・五二平方米)の一部であったが、原告鈴木進は昭和二四年一一月八日頃、本件(イ)(ロ)(ハ)土地を富沢セイより普通建物所有の目的で期間の定めなく賃借し、権利金一万円を支払った。原告鈴木進は、賃借後間もなく、賃借地中本件(ハ)土地上に本件甲建物を建築した。所有権保存登記はかなり遅れて昭和三二年一〇月二九日にこれを了した(本件(イ)(ロ)(ハ)土地がもと富沢セイ所有の上記二七四三番地宅地の一部であったこと、原告鈴木進が昭和二四年一一月八日頃富沢セイより本件(ハ)土地を賃借したこと、原告鈴木進が賃借地上に本件甲建物を所有し、所有権保存登記を了したことは当事者間に争いがない。)。

(二)  原告は、賃借後間もなく、賃借地中本件(イ)(ロ)土地を義弟の池田勇に無償で短期間転貸することとし、池田は地上に建物を建築し、小料理店を経営していた。ところが、同建物が火災により焼失した後、池田が、原告鈴木進の意に反し、本件(イ)(ロ)土地上に本件丙建物を建築した(所有権保存登記は昭和二九年八月一一日に経由した。)ことから、原告鈴木進は昭和三一年中池田を相手どって藤沢簡易裁判所に対し、本件丙建物収去本件(イ)(ロ)土地明渡請求訴訟を提起し、第一、二審とも原告鈴木進が勝訴した。ところが、池田勇は既に昭和三二年一一月五日丸山晶子に対し本件丙建物を売渡し(同月六日所有権移転登記)、更に丸山晶子は昭和三四年八月七日金吉平に対し本件丙建物を売渡していた(同日所有権移転登記)ことが判明したので、原告鈴木進はあらためて昭和三五年九月三日金吉平を相手どって藤沢簡易裁判所に対し、本件(イ)(ロ)土地の賃借権を保全するため土地所有者富沢セイに代位して、本件丙建物収去、本件(イ)(ロ)土地明渡請求訴訟を提起したところ(同裁判所昭和三五年(ハ)第七〇号事件)、昭和三五年一一月二二日第二回口頭弁論期日において、当事者間に左記条項を含む訴訟上の和解が成立した。

1 金吉平は本件(イ)(ロ)土地につき賃借権その他なんらの占有権原のないことを確認する。

2 原告鈴木進は金吉平に対し、昭和三五年一二月より二ヶ年間本件(イ)(ロ)土地の明渡を猶予し、金吉平は昭和三七年一一月三〇日限り本件丙建物を収去して本件(イ)(ロ)土地を明渡す。

右訴訟上の和解により原告鈴木進は一応本件(イ)(ロ)土地の賃借権を保全することを得た。

(三)  ところで、原告鈴木進の賃借地の所有者たる富沢セイは昭和三八年一二月二六日死亡し、相続により富沢晴雄が右賃借地を含む前記四五三坪の土地所有権並びに賃貸人としての地位を承継した。富沢晴雄は昭和四〇年六月三日右四五三坪の土地を本件(イ)(ロ)(ハ)土地およびその他の土地に分筆し、その結果として、原告鈴木進の賃借地中本件甲建物の存する本件(ハ)土地以外の本件(イ)(ロ)土地上には原告鈴木進名義で登記された建物は存在しない結果となった。そして、富沢晴雄は昭和四〇年六月一一日山本源治に対し本件(イ)(ロ)土地を売渡し(同月一二日所有権移転登記)、次いで山本源治は昭和四〇年一一月二二日金吉平に対し本件(イ)(ロ)土地を売渡し(同月二五日所有権移転登記)、更に金吉平は昭和四二年三月一八日被告に対し本件(ロ)土地を売渡した(同月二〇日所有権移転登記)(富沢セイが死亡し、相続により富沢晴雄が前記宅地の所有権を承継したこと、右宅地が分筆されたこと、本件甲建物が分筆後の本件(ハ)土地上に存すること、被告が金吉平より本件(ロ)土地を買受け、所有権移転登記を了したことは当事者間に争いがない。)。

このように認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

(四)  以上認定した事実によれば、原告鈴木進は前記宅地四五三坪の一部である本件(イ)(ロ)(ハ)土地を賃借して、賃借権を取得し、昭和三二年一〇月二九日賃借地上の本件甲建物につき所有権保存登記を経由することにより右賃借権の対抗力を具備したものである。その後昭和四〇年六月三日右宅地四五三坪の所有者兼賃貸人たる富沢晴雄が右宅地を本件(イ)(ロ)(ハ)土地およびその他の土地に分筆し、その結果として原告鈴木進の賃借地中本件甲建物の存する本件(ハ)土地以外の本件(イ)(ロ)土地上には原告鈴木進名義で登記された建物は存在しない結果となったが、このような場合でも原告鈴木進は本件(イ)(ロ)土地の賃借権を第三者に対抗しうるものと解するのが相当である。蓋し、このような場合賃借地について分筆が行われなければ賃借地の全部について賃借権を第三者に対抗しうる賃借人が、土地所有者において賃借人の意思にかかわりなく一方的になした分筆の措置によって、賃借権の範囲を縮減せしめられるとすることは甚しく不合理であり、このことは賃借地が分筆前の一筆の土地全部に亘る場合であると分筆前の一筆の土地の一部であるとによって異るところはないからである。このように解すると、分筆の結果として賃借人名義に登記された建物の存在しないこととなった土地につき物権を取得すべき第三者は、当該土地を敷地とする建物の登記の有無のみならず(い)当該土地の分筆前の土地を敷地とする建物の登記の有無を調査するほか、(ろ)更に進んで、土地所有者について当該土地が分筆前の土地の一部について存する賃借権の範囲に属するか否かを確定する必要を生ずる。しかし、(い)の点についていえば、当該土地が分筆されたものであることは当該土地登記簿上容易に判明することであるから、第三者はその分筆前の土地を敷地とする建物の登記があるかどうかを調べれば足りるのであって、これは第三者に対し格別困難な調査を強いるものではない。(ろ)の点についていえば、これは、一筆の土地の一部の賃借人の利益保護との調節の見地から、第三者に対し負担を求めなければならない調査であり、それも第三者と物件取引に入る土地所有者の誠実な協力を得ればことがらの確定は必らずしも困難でなく、取引の迅速を阻げることもないと考えられるから、第三者としては叙上の程度の調査をしておけば、不測の損害を蒙ることを回避することができるのである。

以上説明したところによれば、富沢晴雄から順次丸山源治、金吉平を経て本件(ロ)土地の所有権を取得した被告に対し、原告鈴木進は右土地の賃借権を対抗しうるといわなければならない。

二、(本件乙建物の建築とそれに至る経緯)

≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件(イ)(ロ)土地上の本件丙建物につき原告鈴木進と金吉平との間に訴訟上の和解が成立したことは前述した。しかし、金吉平は和解条項所定の期限に義務を履行しないのみか、昭和四〇年に至り原告鈴木進を相手どって藤沢簡易裁判所に対し、原告鈴木進が本件(イ)(ロ)土地に対し賃借権を有していないのに該権利ありと信じてなした前記和解は錯誤により無効である等の理由に基づき請求異議の訴を提起した(同裁判所昭和四〇年(ハ)第五〇号事件)。金は第一審において敗訴するや、横浜地方裁判所に対し控訴を申立てたが(同裁判所昭和四一年(レ)第四五号事件)、昭和四二年三月二八日控訴棄却の判決の言渡があり、前記和解調書に基づく強制執行の停止も解かれた。そこで、原告鈴木進は同月二九日前記和解調書に基づく本件丙建物収去、本件(イ)(ロ)土地明渡の強制執行を行って、本件(イ)(ロ)土地の占有を現実に回復した。

(二)  そこで、原告鈴木進が本件(ロ)土地上に建物を建築すべく材料を準備している間、昭和四二年五月一九日から翌二〇日にかけて金昌煥が一〇人以上の朝鮮人を指揮して本件(ロ)土地上に小規模の小屋四棟を築造してしまうという事態が発生した。そこで、原告鈴木進は昭和四二年七月金昌煥を相手どって横浜地方裁判所に対し前記小屋の収去、本件(ロ)土地の明渡を求める仮処分決定を申請し、その旨の決定を得たが、これより先、前記小屋、本件(ロ)土地につき、被告を債権者、金昌煥を債務者とする占有移転禁止仮処分の執行がなされていたため、前記仮処分決定の執行は不能に帰した。その後、右先行仮処分の執行が解放されたので、原告鈴木進は昭和四三年七月再度金昌煥を相手どって横浜地方裁判所に対し前記小屋の収去、本件(ロ)土地の明渡を求める仮処分決定を申請し(同裁判所昭和四三年(ヨ)第六五九号事件)、その旨の決定を得、その執行を了して再び本件(ロ)土地の占有を回復した。そこで、原告鈴木進はかねて準備していた材料を用いて昭和四三年七月一八日本件乙建物を落成し、同月二五日所有権保存登記を了した(昭和四三年七月中原告鈴木進が本件乙建物を建築したことは当事者間に争いがない。)。以上の認定に反する証拠はない。

三、請求原因(五)の事実(被告の本件乙建物に対する仮処分の申請および執行等)、同(六)の事実(被告の仮処分申請理由)は当事者間に争いがない。

四、(仮処分の適否)

よって、被告が本件乙建物に対する仮処分(以下「本件仮処分」という。)を利用したことが違法かどうかを判断する。

≪証拠省略≫によれば、被告は、本件仮処分の被保全権利として、本件乙建物の収去請求権ないし本件(ロ)土地の所有権を主張する趣旨であったと理解することができる。

しかし、前記一で述べたとおり、原告鈴木進は本件(ロ)土地の賃借権を被告に対抗することができ、同原告は賃借権に基づき本件(ロ)土地を本件乙建物の敷地として正当に使用しうるのであり、従って被告は原告鈴木進に対し本件乙建物の収去請求権を有しないものといわなければならない。被告は収去請求権を借地法第七条の規定によって理由付けているようでもある。しかし借地法第七条の規定は土地所有者が同条所定の異議を述べることによって法定更新の効果の発生を阻止しうることを定めたものであって、賃借人が残存期間を超えて存続すべき建物を築造した場合に土地所有者に対し右建物の収去を求める権利を付与する法意ではないこと多言を俟たない。してみれば、被告は本件乙建物の収去請求権を有しないこと明らかである(この点については、前記三の事実および≪証拠省略≫により認められるとおり、本件仮処分決定に対する異議訴訟の判決において、被告に本件乙建物収去請求権なしとして本件仮処分決定が取消されたことが参照されるべきである。)。被告が本件(ロ)土地の所有権を有することは前述のとおりである。しかし、原告鈴木進は本件(ロ)土地について被告に対抗しうる賃借権を有するものであるから、原告鈴木進が本件(ロ)土地上に本件乙建物を建築したことによって被告の本件土地所有権に基づく使用収益が制約されたとしても、これをもって著しい損害または急迫な強暴と認めることはできない(たとえ仮処分申請理由中にあるように被告が建築現場に臨み口頭で建物の建築を禁止したことが事実であり、また、≪証拠省略≫によって認めうるように被告が原告鈴木進に対する昭和四三年七月一二日付内容証明郵便をもって建築工事の中止と既設工作物の撤去を要求した事実があっても、上記の結論は動かない。)から、被告が本件(ロ)土地の土地所有権につき著しい損害を避け、または急迫な強暴を防ぐため本件仮処分を求める必要性はなかったとしなければならない。仮処分の必要性がないことは本件仮処分の被保全権利を前記本件乙建物収去請求権とみる場合についてもまったく同様である。

上述のように仮処分の必要性のないことは次の事実によってもこれを裏付けることができる。

即ち、≪証拠省略≫によれば、被告は昭和四二年三月二九日付訴状をもって原告鈴木進を相手どって横浜地方裁判所に対し原告鈴木進の本件(ロ)土地に対する賃借権不存在確認、前記原告鈴木進と金吉平間の訴訟上の和解調書(藤沢簡易裁判所昭和三五年(ハ)第七〇号事件)に基づく強制執行に対する第三者異議の訴を提起したが、第一回口頭弁論期日に欠席し、その訴訟は休止満了で擬制取下になったことを認めることができる。右訴の中第三者異議の部分は右和解調書に基づく強制執行が昭和四二年三月二九日に完了した以上、訴の利益がなくなったから、被告がこれを休止満了に終らせたことは諒解できる。しかし、賃借権不存在確認を求める部分は、被告が本件(ロ)土地について原告鈴木進の賃借権の存しないことの確定を得ることによって切実に擁護しなければならない実質的利益があるならば、その訴を維持する態度に出ることこそ自然である。しかるに、これをも休止満了に終らせ、訴提起に伴う出捐と労力を無駄にしたことは、被告が果して右のような実質的利益を有するかについて合理的な疑を挾む理由となるというべきである。そしてこのことは、右訴の擬制取下後における事情の変更があったことが窺われない以上、延いて本件仮処分の必要性のないことを推測させるに足るものといわなければならない。

以上によれば、本件仮処分は被保全権利、必要性の双方(被保全権利が本件乙建物収去請求権である場合)もしくは必要性(被保全権利が本件(ロ)土地の所有権である場合)の要件を欠くものであるから、被告が本件仮処分を利用したことは違法とせざるをえない。

五、(過失の有無)

ところで、現実に本件仮処分を申請し、その執行を行ったのは被告の代理人別府祐六弁護士である。同弁護士が前記のように違法に本件仮処分を利用した以上、右は同弁護士の過失に出たものと推定すべきである。もっとも同弁護士が本件仮処分を利用したことにつき相当の理由が存するときは過失があるということができないが、本件において右相当の理由が存したことを首肯するに足る事実を証する資料を見出せない。そして、被告は同弁護士に本件仮処分の申請および執行を委任した者であり、該委任関係を介して同弁護士を指揮監督する立場にあると認めるべきであるから、同弁護士の過失に基づく加害につき民法第七一五条所定の損害賠償責任を免がれない。

六、(損害)

よって原告等の損害について判断する。

(一)  ≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1 原告鈴木進は本件(ロ)土地上に本件乙建物を建築して昭和四三年七月二一日より園芸植物や野菜類の種子・苗、肥料、小鳥、園芸用品等を販売しており、原告鈴木進吾は、原告鈴木進の子であり、妻子とともに本件乙建物に居住し、原告鈴木進の営業の手伝をしていたものである。ところが、昭和四三年八月二三日午后零時半頃本件仮処分決定の執行を受け、同年一二月二〇日その執行が解放されるまでの間、原告等は前記営業ができなかった。本件乙建物内の店舗では開店から仮処分の執行を受ける前日までの営業期間中一日平均五万二、五九九円の売上があり、その三割五分に当る一万八、四〇八円の利益があった。従って営業できなかった一二〇日間にすくなくとも原告主張の二〇〇万七、六〇〇円の得べかりし利益を喪失した(請求原因(九)1(1))。

2 原告鈴木進は本件仮処分の執行により持出された商品を自宅に運搬収納するための人件費(人夫延二七人)として六万七、五〇〇円を支出した(請求原因(九)1(2)(カ))。

3 原告鈴木進吾は本件仮処分の執行により持出された家財道具を他に運搬収納するための人件費として三万五、〇〇〇円を支出した(請求原因(九)2(イ))。

4 本件仮処分の執行の際執行官と同道した横山某および朝鮮人十数人が原告等の店舗内の商品および居宅内の家財道具を路上に投出した。このため、原告鈴木進につき請求原因(九)1(2)(イ)ないし(ワ)のような損害、原告鈴木進吾につき同2(ロ)のような損害を生じた。

以上の認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  以上の損害のうち右(一)1ないし3の損害は現にその用法に従って使用されている店舗兼居宅が執行官の保管に付され、仮処分債務者の使用は許されない場合において通常生ずべき損害の範囲に属する。しかし、同4の損害は違法な仮処分の利用が条件となって発生したものとはいえ、直接には不当な執行の態容によって招来されたものであるから仮処分債権者またはその代理人がこれを予見すべかりし場合に限って賠償されるべきものというべきところ、被告あるいは別府弁護士が当該特別事情を予見し、もしくは予見すべかりしものであったとの点を認めるに足る証拠はない。

七、(被告の主張について)

被告は原告等が適法に本件乙建物を占有していたことを前提とする損害賠償の請求は失当である旨主張する。

(一)  原告鈴木進が金吉平との間の訴訟上の和解調書に基づいて昭和四二年三月二九日本件丙建物収去、本件(イ)(ロ)土地明渡の強制執行を行って本件(イ)(ロ)土地の占有を現実に回復したこと、本件丙建物はもと池田勇の所有であったが、池田から丸山晶子に、丸山から金吉平に順次売渡されたものであることは前記一、(二)、二、(一)のとおりであり、≪証拠省略≫によれば、被告が右強制執行の約一〇日前である同月一八日金吉平より本件丙建物を買受けて所有権を取得し、同月二〇日所有権移転登記を経由したことを認めることができる。従って、原告鈴木進は金吉平に対する債務名義によって被告所有の本件丙建物収去の強制執行を行ったことになる。しかし、≪証拠省略≫によれば、本件丙建物については原告鈴木進を債権者、池田勇を債務者とする藤沢簡易裁判所発令の処分禁止仮処分決定が昭和三一年四月一四日に登記されていることが認められ、右仮処分決定は前記一、(二)の原告鈴木進、池田勇間の本件丙建物収去、本件(イ)(ロ)土地明渡請求訴訟の提起に伴って原告鈴木進がなした申請に基づくものと推認される。そして、右訴訟は原告鈴木進の勝訴に確定したが、既に本件丙建物は池田から丸山晶子へ、丸山から金吉平に順次売渡されていたので、原告鈴木進はあらためて金吉平を相手どって本件丙建物収去、本件(イ)(ロ)土地明渡請求訴訟を提起し、右訴訟において金との間で右建物収去、土地明渡を内容とする和解が成立したという関係にある。ところで、池田から丸山、金への順次の譲渡は前記処分禁止仮処分に違反するのであるから、原告鈴木進に対し対抗することができず、原告鈴木進は池田との間の勝訴判決に基づき本件丙建物収去、本件(イ)(ロ)土地明渡の強制執行をすることができたのであり、金に対する訴の提起は必らずしも必要でなかった。しかし、原告鈴木進は金を相手どって訴を提起し、結局前記和解をしたのである。このような場合には、前記処分禁止仮処分は、かりにその被保全権利と右和解によって確定した本件丙建物収去、本件(イ)(ロ)土地明渡請求権が実体法上発生原因を異にするものであるとしても、請求権の目的が同一である限り、和解によって確定された請求権を保全する機能を帯有するに至ると解することができる。従って、右和解後金から本件丙建物の譲渡を受けた被告はこれをもって原告鈴木進に対抗することができず、原告鈴木進は被告に対する承継執行文を要することなく、金吉平に対する債務名義たる和解調書に基づき適法に本件建物収去、本件(イ)(ロ)土地明渡の強制執行を行いうるのである。これに反する見解に立つ被告の主張は採用できない。

(二)  被告の主張する被告と金昌煥との間の占有移転禁止仮処分の執行は原告鈴木進が本件乙建物を建築する以前に解放されていたことは前認定のとおりであるから、右占有移転禁止仮処分の執行の存続を前提とする被告の主張も失当とするほかない。

八、以上説明したところによれば、被告は原告鈴木進に対し前記六、(一)1、2の損害合計二〇七万五、一〇〇円、原告鈴木進吾に対し前記六、(一)3の損害三万五、〇〇〇円の各賠償およびこれらに対する履行期の後である昭和四四年四月七日(本件訴状送達の日の翌日に当る。)以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第二、反訴について。

反訴被告(本訴原告鈴木進)が金吉平に対する債務名義たる和解調書に基づいて本件丙建物収去の強制執行をしたことは違法でないこと前述したとおりであるのみならず、反訴原告(本訴被告)はその主張するその余の違法事由および損害額についてなんら立証しないから、反訴原告の反訴請求はその余の点について審究するまでもなく失当である。

第三、結論

原告等の本訴請求は、原告鈴木進に対し二〇七万五、一〇〇円、原告鈴木進吾に対し三万五、〇〇〇円の損害賠償およびこれらに対する昭和四四年四月七日以降各完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。反訴原告の反訴請求は失当として棄却すべきである。

よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 蕪山厳)

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